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慶應義塾大学東アジア研究所 現代中国研究センター

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プロジェクト2:「現代中国の政治参加」

(研究責任者:加茂具樹)

 本研究の目的は、非民主主義国家である現代中国における政治参加の実態を多角的に検証し、現代中国の政治体制の安定性の要因の究明を試みるものである。一般的な経験則によれば、経済発展は社会の多元化をもたらし、多元化した社会は政治の多元化をもたらす。1980年代にはじまった改革開放路線の歩みによって、中国社会は過去と比較して多元化した。そのため一元的な中国政治が多元化する可能性がしばしば指摘されてきた。しかし、1989年の天安門事件以来20年以上にわたって、中国政治は多元化することなく安定してきた。こうして20年間の比較的長期にわたって中国政治が安定してきたことは、近年の中国政治研究の主要な関心を中国共産党一党体制の政治的安定性の要因の究明に収斂させている。本研究の問題意識も、こうした関心と同じである。

 本研究は、中国経済が計画経済から市場経済に向かい、中国社会が過去と比較して階層が多元化し、表出する利益もまた多様になったにもかかわらず、なぜ中国政治は一貫して一元的であり続けたのかという問いに、「政治参加」の視点から回答してゆこうとするものである。

 現代中国において、中国共産党が制度設計した体制内の合法的な政治参加のルートとして、人民代表大会制度(選挙)、裁判制度(行政訴訟など)、陳情活動(信訪制度)、ネット空間を通じた意見表出がある。また暴動や抗議デモ活動は、中国共産党の制度設計の外側で実施されてきた体制外の非合法的な政治参加として整理分類される。本研究は、体制内の合法的な政治参加の実態について実証研究的に分析をおこなう。実証研究をおこなう具体的な内容については本共同研究のメンバーが各自で決定する。

本研究をつうじて、一つには中国共産党が制度設計した体制内の合法的な政治参加のルートが、多元化してきた中国社会が表出する利益を集約し、調整し、政策化している実態を描き出すことが可能である。いま一つには、農村や都市部の住民(多様な利益)が、体制内の合法的な政治参加のルートを目的別に取捨選択して利用し、時には体制外の非合法的な政治参加のルートを選択しながら、戦略的に自らの利益を表出する実態を描き出すことが可能であろう。

 こうした作業を通じて、現代中国の政治体制が安定してきた要因について、中国共産党や政府といった体制側の理屈と、多様化しつつある社会の理屈の二つの観点からの検討が可能である。体制の安定性について、社会の変化に対する体制側の上手な「適応」が理由としてしばしば指摘される。本研究はこの理解を一歩深め、「適応」を能動的な「適応」なのか、受動的な「適応」であったのか、「適応」の分野別の相違について注目する。本研究は、体制側の「適応」の実態についてより立体的な分析が可能であろう。


◆活動報告1◆

【第1回 活動方針の確認】

 日 時:2011年4月4日(月)20:00-20:30

 場 所:Skypeを利用した打ち合わせ

 参加者:加茂具樹 武内宏樹

 本プロジェクトのメンバーは、加茂、武内が米国に在住し、小嶋、中岡、呉が日本に在住している。そのためメンバー全員が参加する会合はメールをはじめとする遠隔地通信手段を利用したものとなる。

 まず米国に滞在している加茂と武内が先ずはスカイプを介して会議を開催した(加茂はサンフランシスコ在住、武内はダラス在住のため)。会議において活動の方針および活動経費の使用についての方針を確認し、確認した内容をメールによってメンバー全員に伝達し、情報を共有した。

 なお、本プロジェクトの活動はもっぱらメールを介した意見交換が中心となる。しかしそうした活動は「活動報告」として明記できない。そのため本プロジェクトの活動報告のなかには反映していない。


◆活動報告2◆

【第2回 活動方針の確認】

 日 時:2011年5月21日(土)20:00-21:00

 場 所:Skypeを利用した打ち合わせ

 参加者:加茂具樹、武内宏樹

 加茂と武内がスカイプを介した会議を開催し、1月に米国テキサス州ダラスにて開催を予定している本プロジェクトの研究成果報告会の開催日程を確認した。会場となるサザン・メソジスト大学の受け入れ状況をふまえ、1月6日の開催とした。


◆活動報告3◆

【第3回 研究討論】

 日 時:2011年6月4日(土)9:30-14:00

 場 所:サザン・メソジスト大学(米国、テキサス州、ダラス)

 参加者:加茂具樹、武内宏樹

 研究グループ1「政治体制の変容」の活動の一環として加茂がダラスを訪問した事にあわせて、本プロジェクトの活動をおこなった。加茂が予定している夏期休暇中の中国での調査活動に関する資料(公文書館資料)について検討した。また加茂の昨年度の研究成果である「現代中国地方政治における政治的つながりの可視化」『KEIO SFC JOURNAL』第10巻2号、湘南藤沢学会、2011年3月、83-100頁(土屋大洋・慶應義塾大学大学院教授との共著)について意見交換をおこなった。なお加茂は、この意見交換をふまえて、上記論文の内容を6月21日(火)Center for Chinese Studies, University of California で開催された非公式ワークショップ(同校、政治学部・歴史学部所属の大学院生が主体となった研究会)で報告をおこなった。


◆活動報告4◆

【第4回 活動方針の確認】

 日 時:2011年7月21日(木)18:45-21:00

 場 所:慶應義塾大学三田キャンパス現代中国研究センター会議室

 参加者:武内宏樹、小嶋華津子、中岡まり、呉茂松

 2012年1月にダラスで開催を予定しているワークショップに関する諸事項について確認した。会議での報告する内容(全体方針に関するプロポーザルを確認)についての確認、ワークショップまでのスケジュール(報告テーマ締め切り、報告文章の締め切)、ワークショップの運営の方針(報告時間、コメント時間、全体による討論の時間)について認識を共有した。また、アメリカ国内から討論者を5名招聘する際に、その宿泊費および交通費および謝金等の手当や、また日本から出席する小嶋、中岡、呉の高越費及び宿泊費の手当について検討した。

 各人の報告案について初歩的な検討をした。

 今回の会合で討論する内容については、事前に武内と加茂がスカイプで協議をして確認をしており、今回の会議の内容はメンバー全員で共有できている。


◆活動報告5◆

【第5回 研究討論】

 日 時:2011年8月6日(土)10:00-13:30

 場 所:慶應義塾大学三田キャンパス現代中国研究センター会議室

 参加者:武内宏樹、小嶋華津子、中岡まり、呉茂松、加茂具樹(スカイプによる参加)

 2012年1月にダラスで開催を予定しているワークショップでの報告案について、各人が報告した(報告10分、討論20分)。「Political Participation in Contemporary China」という問題意識のもとで開催されるワークショップでの各人の報告案は以下のとおり。小嶋は産業別賃金協商のモデル地域におけるフィールド調査をふまえて、市場経済化のなかの中国の労働組合の改革の動向に関する研究をおこなう。呉は中国における権利擁護運動に対して定義を行ったうえで、いくつかの事例の比較分析を通じて政治参加の在り方を検証する。中岡は2006年の北京市人代代表の直接選挙において当選した代表に対するインタビュー調査をふまえ、人代代表が正式代表候補に決定される過程と、決定後の活動の特徴について分析する。加茂は、広東省中山市の事例を利用して地方政治における人民代表大会と政治協商会議の機能の関係について論じる。武内は中国の「市営企業家」あるいは「資本家」の「台頭」に注目し、彼らの台頭を中国共産党の生き残り戦略の一環であると理解した上で、その戦略の抱える問題点が中国の権威主義体制にあたえる影響を論じる。

 この他、8月27日、28日に開催される現代中国研究センターの合宿での報告事項についても協議した。


◆活動報告6◆

【第6回 研究討論】

 日 時:2011年12月5日(土)10:00-13:30

 場 所:慶應義塾大学三田キャンパス現代中国研究センター会議室

 参加者:加茂具樹、武内宏樹、小嶋華津子、中岡まり、呉茂松

 2012年1月6日に開催を予定しているワークショップに提出するワーキングペーパーにもとづいて、参加者が各自報告をして議論をおこなった。

1. "Roles of the People's Congress under the Authoritarian Regime-From Acquiring Legitimacy of Control to Expressive Interests", 中岡まり

2. "Collaboration with the Local Committees of Chinese People's Political Consultative Conference and the Local People's Congress: What are the Roles of China's local Democratic Representative Institutions in China's Local Politics?" 加茂具樹

3. "The Search for Political Participation with Chinese Characteristics", 小嶋華津子

4. "The Weiquan Movwment and The State in Contemporary China" 呉茂松

 なお、武内は1月のワークショップでは司会兼討論者を務めることから、会議のコンセプトについて確認するための「導入」に関しての報告をおこなった。


◆活動報告7◆

【第7回 研究討論】

 日 時:2012年1月6日(金) 9:30-17:00

 場 所:米国、テキサス州、ダラス、サザン・メソジスト大学ジョン・ゴールド・タワーセンター

 参加者:加茂具樹、武内宏樹、小嶋華津子、中岡まり、呉茂松


 本プロジェクトの活動の総括の場として、2012年1月6日、テキサス、ダラスにて「現代中国における政治参加(The Political Participation In China)」と題するワークショップを開催した(慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センターとサザン・メソジスト大学ジョン・ゴールド・タワーセンターの共催)。

 ワークショップの出席者である日本在住の研究者と北米在住の研究者は、「権威主義体制中国における政治参加の現状に関する検討」を共通テーマとしたワーキングペーパーを昨年12月中旬までに作成し、これを事前に交換し、読んだうえで参集した。また、ワークショップは、参加者がそれぞれ論文を5分から10分ほどで報告した後、一つの論文について自由討論する(1時間)という形式で実施した。

 なお、ワークショップを開催するにあたり、参加者は以下についての認識を共有していた。


(1)分析対象(政治参加)

 世界における多くの非民主政体がそうであるように、中国の権威主義政体は民主的制度を設けている。そうした制度は、中国における将来の民主化を導く可能性があるのだろうか。

ワークショップに参加した日米の研究者は、この問題意識を共有しながら中国における政治参加の様々な形態を分析の対象として取り上げることにした。

(2)概念構築(「政治参加」という概念)

 これらの政治参加の形態は、人民代表大会や行政訴訟法、村民選挙、あるいは陳情(信訪制度)といった制度化されたチャネルだけではなく、抗議活動や暴動などの制度化されていないチャンネルも含まれている。そこで参加者は、政治参加という概念を、権威主義政体における民主制度、国家・社会関係、中央地方関係、そして公式制度・非制度間の関係、といった三つの視点を踏まえて議論することとした。

(3)分析射程

 加えて、参加者は以下の点を共有する分析の射程とすることにした。第一には、中国の権威主義政体における民主制度の機能と限界とはなにか、第二には、政治参加の現状は、中国の将来における民主化の可能性についてどのような示唆を与えているのかである。


 ワークショップ参加者の報告テーマは以下の通りであった。会議は武内が会議のコンセプトおよび想定される論点を整理した後、おこなった。

1. "Introduction", Hiroki Takeuchi, Southern Methodist University.

5. "Congresses with Constituents, Constituents without Congresses: Chinese Township Congressional Representation", Melanie Manion, University of Wisconsin−Madison.

6. "Roles of the People's Congress under the Authoritarian Regime-From Acquiring Legitimacy of Control to Expressive Interests", Mari Nakaoka, Tokiwa University.

7. "Collaboration with the Local Committees of Chinese People's Political Consultative Conference and the Local People's Congress: What are the Roles of China's local Democratic Representative Institutions in China's Local Politics?" Tomoki Kamo, Keio University.

8. "Popular Protest as Political Participation in Contemporary China", Teresa Wright, California State University, Long Beach

9. "The Search for Political Participation with Chinese Characteristics", Kazuko Kojima, University of Tsukuba.

10. "The Weiquan Movwment and The State in Contemporary China" Wu massing, Keio University

11. "Citizen Complaints in China", Martin Dimitrov, Tulane University.

12. "Opportunity Structures and Mobilization among "Disorganized Labor" in China", Mark W. Frazier, University of Oklahoma.

13. " 'I-Paid-A-Bribe' in India Versus China: A Comparative Study of Online Activism and State-Society Relations", Yuen Yuen Ang, University of Michigan.


 本ワークショップに提出されたワーキングペーパーをワークショップでの議論を踏まえて修正し、研究書として刊行するために作業をすすめている。加茂と武内は、2012年3月15日から19日までカナダ、トロントで開催されたAssociation of Asian Studiesの年次大会に出席し(セッションでの報告のため)、会場に併設されているブックショップにおいて幾つかの出版社と面談し刊行の可能性の打診をおこなった。


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